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コラム/ データ活用に関する一考察 第5回

中小企業診断士 福田 美詠子



2.日本のデータ活用を考える
(1)日本の文化がITに及ぼす影響

◆日本の文化がIT開発・導入やデータ活用に影響

 日本のIT・データ活用の遅れには文化的な背景があると思われます。IT産業のイノベーションで世界を牽引するアメリカとの対比から、文化的影響を考察します。まずデータ活用の前提となるIT化について。

◆ボトムアップ、組織志向、安定志向の日本の文化

 アメリカがトップダウン、日本はボトムアップの発想に強いといいます。日本は「カイゼン」活動で、現場が中心となって問題を解決していくが得意です。
 また、日本は組織*10 志向が強く、日本型雇用の3種の神器は終身雇用・年功序列・企業内労働組合とされてきました。「お客様は神様です」といい、所属組織とその顧客に滅私奉公するような働き方がしばしばされてきました。かたや、アメリカンドリームやフロンティア精神という言葉があるアメリカでは、「人類の発展のため* 11」という考えで起業することが大学の講義で説かれています。
 日本では、変化より安定が好まれます。老舗が信頼され、一つのことを始めたら道を究めていくことを理想とする人生観があります。落ち着いた環境のもと、綿密に設計し、じっくりと手間をかけて間違いなくキレイに作り込まれた仕事が喜ばれます。アメリカでは、ITでアジャイル開発が考案されるように、多少雑であっても迅速にリリースし、変化に対応していきます。

◆大規模システム構築で組織を維持したいベンダー

 このような日本の文化が、IT業界の収益構造につながっています。これまでITベンダーは、少数の企業からの大規模システム構築を主要な収益源としてきました。
 安定的な売上が上がる大規模受注は、ベンダーの組織維持に寄与します。受注できるように無理な見積を出し、発注企業のITを理解しない要望に応え、既存技術を使って作り込む仕事に追われることもあるようです。
 委託による開発のため、現状業務の置き換えになりやすく、発注企業の利益に反するような革新的なシステムは生まれにくくなります。発注企業の組織外となる⑦社会型のシステムなどは、特に発想されにくい分野です。
 また、自身の考案したITを作るベンチャーになるのは、日本では勇気のいることでした。発注側も、上層部がよく分からない革新的な独自技術より、実績のあるシステムを入れたがるので、なかなか顧客が付きません。欧米のエンジェル投資家のような存在も少なく、失敗すれば再起が難しい上に、IT業界はドッグイヤーといわれるほど技術革新のスピードが速く、デファクトスタンダードが取れないままに技術が陳腐化するリスクが高いなど、ITベンチャーには厳しい環境といえます。
 IT業界の変化の早さは、安定を好む日本の文化にそぐわない点があり、ITを他人事にしておきたい理由のひとつと考えられます。

◆専用システムを一から構築する発注企業

 多額のコストを負担して発注する企業側は、競争力強化を目指して自社専用のシステムを持ちたがりました。発注企業のカスタマイズ要望には彼らのノウハウやアイディアが入っていますから、競合に転売されては所属組織への裏切りになり、クローズしたシステムにしようとします。せっかく出た発注企業からのアイディアは組織内に留まり、世の中のIT発展にはなかなか貢献できません。システムは、既存業界の範囲内で外部接続が少ないまま、狭く深く発達していきます。
 結局、世の中に既にあるシステムをまねて各社が一から構築する形をとるため、発注企業は開発費と期間を費やし、保守費用もすべて負担して、巨大なレガシーシステムを保有することになります。

◆汎用的な機能を安く使いたい個人は、アメリカのベンダーが取込み

 そしてITは高価すぎて、中小企業や個人の手の届かないものになってしまいます。 中小企業や個人は、汎用的な機能を安価ですぐに使いたく、自分たちで開発することは負担に感じていることが多いと思います。
 そこに、アメリカなどの外資のITベンダーが入り込んでくるわけです。インターネットには国境がなく、日本語対応をすれば参入障壁は低く、競合のいないブルーオーシャンが広がっていました。外資は、個人の利用促進が必要と判断すれば、廉価に、ときに無料で、システムを開放します。日本の個人市場は、MicrosoftやApple、Google、Amazon、Facebook・Twitter・Instagram、YouTubeなどに席捲されてしまいました。個人情報や決済を含む大量のデータが、日々これらのベンダーに提供されています。

* 10 ここでいう「組織」は所属している企業やクライアント企業等の人間集団のまとまり全体を指す。アメリカの経営学における「経営層」vs「組織」という意味ではない。
* 11 ティール『ゼロ・トゥ・ワン』NHK出版、2014年
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